サイエンス・ファンタジーが好きな人間は『忘れえぬ魔女の物語』を読んでほしいという話

毎度お世話になっております。ゆりぼうです。

 

今回は21年1月14日にGA文庫より発売された

『忘れえぬ魔女の物語』

を読みましたのでそちらの感想を。タイトルにもある通りサイエンス・ファンタジーが好きな人間はもれなく読んでほしいです。

忘れえぬ魔女の物語【電子特装版】 (GA文庫)
 

【あらすじ】

今年進学した高校の入学式が三回あったことを、選ばれなかった一日があることをわたしだけが憶えている。そんな壊れたレコードみたいに『今日』を繰り返す世界で……。
「相沢綾香さんっていうんだ。私、稲葉未散。よろしくね」
そう言って彼女は次の日も友達でいてくれた。生まれて初めての関係と、少しづつ縮まっていく距離に戸惑いつつも、静かに変化していく気持ち……。
「ねえ、今どんな気持ち? 」
「ドキドキしてる」
抑えきれない感情に気づいてしまった頃、とある出来事が起きて――。
恋も友情も知らなかった、そんなわたしと彼女の不器用な想いにまつわる、すこしフシギな物語。

 

※公式よりあらすじを引用させていただいております

 

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 ~ネタバレ要素をあまり含まない感想~

 

「魔女」という単語に惹かれ購入した本書。最近「魔女」という存在が好きということに気が付いた。

本書を開くと真っ先に目に入るのが女と女がキスをしているカラーイラストページ。女と女がキスをするシーンは健康に良い、こんなんなんぼあってもいいですからね。

 

 世界は何度も繰り返されている、『採用』をされた日が『昨日』になる。採用されなかった『昨日』はなかったことになる。そんな、なかったことになった『昨日』を忘れない少女、相沢綾香を軸にして物語は進んでいく。彼女はどんな些細なことでも忘れない。どんな古い記憶でも昨日の夕飯と同じ密度で思い出すことのできる。

例え『今日』友達になったとしても友達になることが出来なかった日が『採用』されてしまったら2人が友達だったという事実は世界には残らない、でも彼女、相沢綾香はそれを記憶している。

そんな世界で出会った2人、相沢綾香と稲葉未散は繰り返された入学式3回で3回とも知り合いとなる、そんなところから始まる本書。

 

 ここまでで12ページ。

 

序章だけで「今から百合をやります!」という気概をばちばちに感じた。ほんのわずかな情報だけで百合のオタクをここまでわくわくさせられるのはそれはもう才能。全幅の信頼を預けて読み始めていいのだなと身をゆだねることがすぐにできた。

 

 そこから描かれるのは1日平均で5回同じ日を繰り返すために体感75年生きている15歳の少女の悩みや彼女に訪れた『採用』したくない日にあらがおうとする姿である。ちなみにこの辺りから10歳の相沢綾香に一目ぼれした23歳のレズビアンの親戚が登場する。顔が良いし170㎝ある。背が高い女が出てくるとわたしは嬉しい。

 

 初めて出来た友達との距離感の測り方や家族との確執、過去の人間関係が築けそうだった話など好きな要素が満載でどんどんと展開されていく本書。

 多分作者は”悪い百合のオタク”。そう確信できるようなシーンがこの1冊にこれでもかというくらい収録されている。これは最上級の誉め言葉。私自身悪い百合のオタクの要素を持ち合わせている悪い百合のオタクの考える文章が大好物。

 もちろんハードな展開だけではなく甘い展開も用意されている。福利厚生がしっかりしているね。

 相沢綾香にとっては体感75年生きてきて初めて出来たお友達、しかし自身が何度も日々を繰り返してしまうという『呪い』を持っていること、過去に確執を生んでしまったという恐怖。様々な想いが錯綜しながらも描かれる愛は必見。

 

 そして何よりも観測してほしいのは2人のキスシーンである。300ページ以上の内容全てを前フリに使った最高で最強のキスシーン。来ると分かっていながらも、身構えながらもそんな防御がなすすべもなく崩れ去ってしまうほどの破壊力。完敗です。

 本書は相沢綾香視点で描かれている。全てを踏まえたうえで稲葉未散のことを最初から読み返すと面白いかもしれない。

 

 この1冊で完結かと思いきやすでに続巻の情報が出ている。しかも4月発売らしい。

この情報を見たときに「えっこの終わらせ方をして次の巻出るの?えっちしかすることなくない?」ってなった。でももしそういうことをすることになったとして何回も同じ日のえっちを繰り返す相沢綾香とんでもなくない?稲葉未散のあんな顔や声を昨日の夕飯と同じ密度で思い出すことのできるんだ……

稲葉未散「綾香、初めてなのに上手いね?」じゃん

忘れえぬ魔女の物語2 (GA文庫)

忘れえぬ魔女の物語2 (GA文庫)

  • 作者:宇佐楢春
  • 発売日: 2021/04/14
  • メディア: 文庫
 

 表紙可愛いね……

 

 ここまで読んでいただきありがとうございました。最後えっちの話で〆てしまったけど見たいものは見たいので仕方がないです。

 乱雑になってしまいましたが『忘れえぬ魔女の物語』の未読の方へ向けての紹介と感想でした。ここから下はネタバレを含んだ感想を少しばかり書いていきます。

 

それではまた次回もよろしくお願いします。ゆりぼうでした。

 

 

 

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 ~ネタバレ要素を含んだ感想~

 

【第1章】

 急に人が死ぬもんだからちょっとばかりビックリしてしまったってのが率直な感想。1章はもう少し相沢綾香と稲葉未散の何気ない日常のやりとりを見たかったな~と思ってしまった。

 ただ本書は登場人物も少なくなおかつ水瀬優香はこれまでずっと相沢綾香の唯一の頼れる人間だったため少ないページ数で水瀬優香の死に対する相沢綾香の失望感などが頭に入ってくるので展開自体はスッと入ってくるものになっていた。

 

【第2章】

 良かれと思ってしたことが裏目に出てしまうことというのはよくある。相沢綾香は喜ばせようとして逆に相手の心をへし折ってしまう。この作品の設定だからこそ生まれるこの2人の関係性は非常に上手く、本書ならではだなと思った。

浜野アリアは相沢綾香にとって友達になることの出来なかった存在。

稲葉未散は相沢綾香にとっては友達になることが出来た存在。この両者の関係性を上手く用いた展開にはもうあっぱれ。未散をかばうためだけではなく自身の傷をぶつけてしまうところが体感で75年過ごしていても15歳の少女だなと思い返させる。とても良い。

 あとこれれは個人的な嗜好なのだがメンタルがやられて嘔吐する女のことが滅茶苦茶に好きなのでとても嬉しい気持ちになりました。

 第2章で好きな文章「梅雨入り七十二日目」

 

【第3章】

 数10ページ前に初対面を終えた2人が相沢綾香を取り合ってバチバチしてるのは1周目だと割と唐突感が否めない気がした。また相沢綾香視点でずっと書かれているため水瀬優香が思っていることをぶつけるシーンは少し怖さと悲しさを感じてしまう。

 しかしこの物語で面白いのは『採用』されなかったら2人の口論などなかったことになること、そして違う切り口で傷をえぐられてしまう可能性があること。そしてなにより面白いのが口論が発生しなかったときである。普通の小説なら口論などが起きたらそこが盛り上がりの部分になるのだが、この物語は、口論が行われなくても相沢綾香は相手がどのように思っているかを知ってしまうことが出来るため、仲睦まじい会話でもそこはかとない気持ちの悪さを演出できてしまうのである。

 水瀬優香が「君は子供」だと伝えるシーンがトップクラスに好き。75年生きていたとしても彼女は15歳までの期間しか知らない。まだ子供なのだ。知らない世界が沢山ある。

 3章、好きなところ沢山ある。

 未散を守るために高校生活の2年半、および体感12年半を捨てる覚悟を見せるシーン。未散のためならと行動する相沢綾香、4章への布石の敷き方が上手い。

 

【第4章~】

 3章まで読み切ったときときに「このままの感じで終わっていけば”普通に好き”くらいの作品だな~」と思っていたら開幕2行で未散が死ぬということを宣告される。いったん休憩しようとした手が止まってしまった。

 「百万日間可能世界半周」というタイトル狂おしく好き。4章、出てくる数字がどれも馬鹿でかくて興奮する。

 4章、キスの話しかできないくらいにはキスのインパクトがでかい。相沢綾香が100万回以上死ぬことを繰り返している原動力が『採用』されることのなかった1日のキスというのが非常にLove。3000年を支えているのがたった1秒の出来事なのが本当に本当に良い。

 最後のシーンで相沢綾香からキスをするシーン、これまで踏み込んでこなかった領域に自分から足を踏み入れた相沢綾香を見て思わず「おいおいおいおい!!!!!自分から行ったよ!!!これが見たかった!!!」となっていたらページをめくったら

「今度は、わたしから」

と書いてありその通りですそうですこれです負けましたありがとうございます。となった。最強。

 

 

 最後に気になった部分。時折出てくるネットスラングが少し気になってしまったのと、この展開をやりたいがために若干無理矢理感がある展開がいくつか見られたので展開に置いていかれてしまうということ。

 今後描かれるのかもしれないがもう少し稲葉未散や水瀬優香に対しての掘り下げがあったほうが4章の展開をより楽しめたのかなと感じた。とても1冊に収まりきるスケール感ではないので2~3冊分かけてから4章の展開を読みたかったのが正直なところ。

 ただそういった気になる部分を含めてもおつりが来てしまうようなラストの展開には圧倒されてしまった。

 読んで良かったと思える1冊でした。2巻も非常に楽しみです。